霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

ブルーベルベット

青年が好奇心のまま性暴力事件に足を踏み入れる物語

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基本情報

作品名:ブルーベルベット
監督:デイヴィッド・リンチ
ジャンル:サスペンス・ミステリー
描写:実写
公開:1987年
音声:英語・字幕

作品概要・感想(ネタバレなし)

物語について

一般受けはしないであろうコアな世界観。
公開当時、性的虐待の描写が論争を巻き起こしたという作品だが
現代の目線だと映像展開はそこまで刺激はないと思う。
普通は目にすることのない闇の世界を暴いていくスリルが魅力の作品。

殺人ミステリー、恋愛、覗き、性的虐待、洗脳、監禁、薬物中毒など
過激な衝撃要素がふんだんに詰め込まれているため
物語の軸がやや不鮮明な印象だが、ジャンルを超えて人間の本質が描かれている。

主人公の青年ジェフリーの好奇心が強すぎて
大人は絶対にしないであろう事件への介入が物語を動かす。
自業自得の闇へ引きずり込まれ、闇の中でも更に好奇心を膨らます旺盛さ。
君には危機感というものがないのか。
緊迫感を煽る描写は見事でハラハラしながら見ることが出来た。

加害者の心の脆さ、被害者の異常性、欲望に負ける正義など
一概にどれを優先させるべきなのか悩ましいテーマが織り交ざっている。
登場人物は皆本能的で「こうしたい」で動くからこそ無秩序な世界が広がる。

映像について

古いなりの画質。
虫や死体のズームがあるがほんの小道具程度の出番。
性行為シーンはあるが生々しさは然程なく
途中でやめたのか終わったのか分からないカットの仕方。

あらすじ・感想(ネタバレ)

父の入院を機に実家に戻ってきた大学生の青年ジェフリー。
声を出せなくなる程痛々しい重症でその事件を追及するのかと思いきや無関係。
「青い芝の下に虫が蠢く」というのが今作品のテーマだそうで
タイトルの『ブルーベルベット』=芝=人間の表面的な部分という意味だろう

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人間の耳を拾い、知人の警察官に届け出たジェフリー。
いやまず普通素手で拾わないだろう。通報するだろう。
死体ではなく生きた人間のものと鑑定され詳細が気になるが
事件が解決するまで関与しないよう忠告を受ける。

警察官の娘サンディから、ドロシーという歌手が関係している事件だと知らされ
好奇心を募らせる若い男女2人。
共謀してドロシーのマンションへ忍び込むが
見張りの合図に気付かなかったジェフリーはドロシーの帰宅に鉢合わせてしまう。
咄嗟に隠れたクローゼットから部屋を覗く緊張感。

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ドロシーは旦那と子供をフランクという暴君に誘拐され
家族を監禁されている立場だった。
フランクの脅しに屈し、性奴隷となるドロシーの姿をひたすら覗き見。

見つかってしまうも相手が歌手であることを利用してファンのフリをすると
包丁片手に優位を保ちながらジェフリーに抱かれようとするドロシー。
クローゼットから出てきた見知らぬ男相手なのに、心細さ故に好意を信じたのか。

ピンチを免れるための嘘とは言え、若き青年にとっては棚ぼた展開だったのか
「彼女を救いたい」という正義感も生まれドロシーの部屋に通うようになる。

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ドロシーもジェフリーが好きと言い出して秘密の関係が紡がれる一方で
彼氏のいるサンディと親しくなっていき恋心も描かれていく。

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ドロシーはM気質なのか、自分をいたぶるよう誘発。
フランクに主導権を握られ性的虐待を受け続ける背後には
彼女自身どこかで嫌がっていないのでは?という疑惑も浮上。

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サンディはコマドリの夢を見たという話をジェフリーに聞かせる。
闇はコマドリが飛んでくるまでの間の辛抱で、きっと幸せな日は来るわという
神のお告げ的な話だった。

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ドロシーの部屋にやって来たフランクにジェフリーの存在がバレてしまう。
当然殺気立ったフランクは無理やりドライブへ連れ出し、ボコボコに。

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連れていかれたのは旦那と子供が監禁されている場所だった。
監禁と聞いて思い浮かべる汚い場所ではなくオカマや太った女たちが集まる綺麗な家。
そこで優雅に歌い始めるオカマの歌が胸に刺さったような表情をするフランク。

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自制するかのように音楽を中断させ暴君キャラに戻るが
弱くて脆い自分を隠すためであるような描写。
「ファック!」が口癖のおじさん普通に考えてヤバい。

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フランクに虐待を受けてることを知った時点で
ドロシーの歌うクラブで注目して彼を見ていた時もフランクは純粋に涙していた。
ドロシーに着用を強要していたブルーベルベットのガウンの切れ端を握り締めながら。
ジェフリーは恐らく彼の表面と内面が違うことに気付いていただろう。

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ジェフリーが最初に耳を届けた警官=サンディの父に証拠と共に真相を説明に。
しかしそこには警官も黒幕に含まれるため、すんなり解決に至らなかった。

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サンディと楽しくデートして帰ってくると
まさに暴行を受けた直後と思われる傷だらけのドロシーが全裸で立ち尽くしていた。
この映画が騒がれたシーンはここらしい。
個人的にはケガというにはちょっと血の演出がもう少し欲しいのと
虐待を受けている割にそれに嘆き苦しむ描写がないのが物足りない気はする。
ある日突然訪れた若者に依存しただけで虐待の悲惨さが伝わらないような。

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サンディの家へ連れて行って警察と救急車を呼ぼうとするも
頑なに警察を拒み、ジェフリーへの依存をあらわにするドロシー。

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他に彼氏がいるとは言え、ジェフリーと恋仲になりつつあったサンディは
そりゃまぁショック受けるよねっていう二股の因果応報展開。
ドロシーは追い打ちをかけるように
「彼の一部を貰ったの。私のすべてを見せたわ」と絆があることをサンディへ主張。
それにしてもこの口の形すごいなっていう。 

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電話で謝罪を受け入れて貰うシーンのサンディのお部屋のランプが可愛い(そこ)。

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ドロシーの家に警察を向かわせるようサンディに頼み
明らかに怪しい事件現場へジェフリーも向かうことに。
うん、だからさ。普通警察に任せて君は行かなくていいよね。
そこには問題の刑事が半分死んだような状態で立ち尽くし
耳のないドロシーの旦那が拘束されていた。
この光景を前にひるむことなく部屋のドアを閉めて入っていく感覚凄すぎる。

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警察の無線機を持ったフランクに敢えて「寝室に隠れます」と嘘を伝え
隠れ家としてお馴染みのクローゼットに身をひそめるジェフリー。
フランクと一騎打ち状態で緊迫する中、扉が開いた瞬間先に撃ってジェフリー勝利。

その後平和に交際している様子が描かれるジェフリーとサンディ。
幸せの象徴であるコマドリが虫を咥えている様子に
序盤に描かれた「美しいものの中には醜いものが潜んでいる」というテーマに帰着。

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