霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

コララインとボタンの魔女 3D

両親に不満を抱く少女が別世界に憧れを抱く物語

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基本情報

作品名:コララインとボタンの魔女 3D
監督:ヘンリー・セリック
ジャンル:ファミリー
描写:3Dアニメ
公開:2009年
原作:『コララインとボタンの魔女』(児童文学作品)
音声:吹替・字幕

作品概要・感想(ネタバレなし)

物語について

秘密の扉を通り抜けると不思議な世界が広がっていて
不満だらけの現実と真逆の夢のような憧れを体験出来るという設定。
シンプルなメッセージ性は子供向けでありながら
描かれる世界観の不気味さと可愛らしさに引き込まれる。
鑑賞数日後も尚、その世界を想像してしまうくらいに。

脇役の設定やエピソードが案外深くて大人目線でも面白かった。
裏を読んで、魔女目線で見てみると味わい深さが増すと思う。

映像について

芸術的なダークファンタジー
主人公は女の子が憧れるような愛らしいキャラクターではないが
景色や小物のデザインが美しくクオリティが高い。
ディズニー映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』と同監督と知って納得。
子供らしい柔軟な発想をプロが形にしたおもちゃ箱のような作品。

ただ吹替版声優の母親役が戸田恵子なので
そこはもうまごうことなき戸田恵子。完全なる戸田恵子

あらすじ・感想(ネタバレ)

起:新居への引っ越し

新居に越してきた父・母・娘で構成されるジョーンズ一家。
両親ともに家庭内で執筆作業をする職業で集中力を要し
子供の相手をする余裕がなく「おとなしく1人で遊んでて」の姿勢。
退屈したコララインは家の中を散策し
壁紙で封印された小さなドアを見つける。

両親は料理も不得意で、コララインにとってげんなりする食事だった。
分かる。食事がまずいって本当にテンションが下がる。
彼女がいかに環境の変化を願っていたかは想像に難くない。

映画冒頭でコララインは魔女になりきっていることからも
色んな妄想で心を満たそうとしていたのではないかと読み取れる。
大人になると非現実的なことを思考するエネルギーを失うが
子供が描く夢は無限に広がるし、それが現実になる可能性を信じている。
いつか王子様が、大金持ちになったら、正義の味方が現れたら…など
忘れていたその感覚を思い出してフラットな目で物語を見ることにした。

引っ越してきたばかりで頼れる人も仲良しの友達もおらず
ご近所のやんちゃ少年ワイビーだけが
もしかしたらこの先唯一の味方になるのかもというフラグ。
しかし突然自分そっくりの人形をくれるって怖い。
しかも似せたわけじゃなくそういう人形が元からあったとのこと。
姿を見せない婆ちゃんとは何者なんだ。

承:別の世界へ

夜中に目が覚めると、小さなドアが開いていた。
ネズミを追いかけハイハイで進んでいったら異世界へ辿り着く。
この辺は『ふしぎの国のアリス』や『ドラえもん のび太とアニマル惑星』を彷彿とさせる。
トンネルを抜けた先は自分の家と同じ景色でお母さんもお父さんもいるが
人物の目がボタンになっていて不気味な表情。

しかし両親は優しく話しかけてくれるし食事が美味しい素敵な世界だった。
ドリンクシステムが夢が詰まっていて楽しそう。
土いじりが苦手で放置されていた庭も花が美しく咲き誇る。
しかも庭作りはコララインの顔を模していて、親からの愛が目一杯!

ただ、大人目線で見ると安易に先が読めるというか
「甘い話には裏があるに決まってる」という疑いの目で見ずにいられない。
貰った自分そっくりの人形とボタン目の世界がどう関係するのかな
という点を気にしながら見ていく感じだった。

 夢なのか、現実にちゃんと存在する世界なのか、いつもの世界との関係は?
どこに罠があるのだろうと少しヒヤヒヤしながら
夜ごと扉を通って通い続けるコララインと共に冒険を楽しむ。

転:別の世界の闇

別の世界のママの正体が魔女だと発覚。
この世界に魅力を感じさせるために望むものをすべて与える代わりに
目をボタンに変えて永住させるのが狙いだった。

物語はここで恐怖を与えようとする。
ボタンにされるのは怖い、魔女は悪い奴だから抵抗しなければいけないと。
でも私にはデメリットが多いのは現実の世界のようにも思えて
目をボタンにされるということがどれだけのダメージかによっては 
魔女に身を委ねて一緒に暮らすのも1つの手なんじゃないかと思った。
だって現実世界は苦痛がいっぱいで願いの末に現れたような夢の世界じゃないか。

しかし別の世界の方では魔女の絶対権力のもとに
喋ることすら許されないワイビーや別のパパの様子が描かれたり
魔女に囚われて殺されてしまった子供たちの幽霊が登場。
魂を奪ってしまうともなればそれは悪霊と認めて拒絶が必要なのかと
ちょっと残念に思いながらも、幽閉される幽霊の世界がまた美しい。

私は逆にボタンの魔女目線で世界を考えたりもした。
出来る限り相手が望むものを与えてあげる代わりに側にいて貰おうとする。
極端に魔女が悪として描かれたこの作品の外でも類似するケースがよくある。
好意を見返りにした贈り物や頼まれごとは日常に溢れている。
自分の心の奥底にある孤独の闇がちょっと刺激された。
魔女はこんなによくしてくれたじゃないか。夢を見せてくれたじゃないか。
なのに魔女には救いがないのか。魔女は何のために生きてきたのか。

「1人にしないで置いていかないで」と叫びながら追ってくる魔女が悲しい。
追われる方には恐怖しかない。当然だ。
でも追いかける魔女を応援したくなる私がいた。

結:現実へ

現実ともう1つの世界どちらを選ぶのか。
本当の世界のパパとママがボタンの魔女に誘拐され
助ける為に再びもう1つの世界へ行ってゲーム対決が始まる。
ただ勝敗が決まる展開ではなく
魔女の側のドアにボタンが隠してあると読むあたりも面白い。
大切なものは側に置く、という価値観が一貫している。

悪は滅びた。悪…だったんだろうか。
大人になって色んな人の価値観を知って
最早国が違えば宗教が違えば正義の価値も覆ることを知って
子供の頃見た悪役と今の目で見る悪役の印象が随分変わった。
個人的な感想としては、魔女にも救いが欲しかったな。

本当の世界に帰ってきたコララインは
命を懸けて守り抜いた両親との再会に感激するが
両親にはもう1つの世界での記憶がないらしく感動の共有ならず。
現実はそんなに夢心地じゃない。
それでも側にいるありがたみを感じて喜べる心を持てるようになって
事情を説明することなく嬉しそうに輪の中へ入っていく。

めでたし、めでたし…でいいのかなと個人的には疑問が残ったお話。