霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

ルドルフとイッパイアッテナ

家出した飼い猫が野良猫に教養を学ぶ友情物語

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基本情報

原作:斉藤洋
監督:湯山邦彦 / 榊原幹典
脚本:加藤陽一
描写:3Dアニメ
声優: 井上真央 / 鈴木亮平 / 古田新太 / 水樹奈々 ほか

あらすじ(ネタバレ)

起:飼い猫時代

庭の大きな桜の木から花びらが舞い込む綺麗なリビング。
小学生のリエちゃんに飼われ穏やかに暮らす黒猫が主人公ルドルフ。
おでかけする飼い主についていこうとして外に飛び出すも
見失ったり車にひかれそうになったりハプニングが続く。
魚屋の商品をひっくり返して追い回され、慌ててトラックに飛び乗ってしまうと
ルドルフはそのまま高速道路で1晩かけての移動をしてしまうのだった。

承:野良暮らし

トラックを降りた先で体格のいいトラ柄の大きな猫に睨まれるルドルフ。
怯えながらも虚勢を張って強がると
その大猫は敵視をやめ面倒を見てくれることになった。
名前を尋ねられた大猫は、色んな人に好きに呼ばれているため少し悩み
「いっぱいあってな…」と言うとそれが名前だと勘違いしたルドルフ。
リエちゃんを恋しく思い泣きながらも
ルドルフとイッパイアッテナの2匹連れ添った生活が始まる。

給食のシチューを食べに小学校へ行ったり、近所の家に猫撫で声で甘えるなど
イッパイアッテナは人間に餌を恵んでもらうのが上手だった。
その先々で「ボス」「デカ」「トラ」「しますけ」などと呼ばれていて
なるほど、確かにいっぱいあるなと理解していく。

金物屋に飼われるひょうきん者のブッチーが現れ
イッパイアッテナが元飼い猫だったことやブルドックのデビルが恐ろしいこと
以前犬に立ち向かって勝利した際、捨て台詞を吐いたことなどを知る。
目新しい世界に興味津々のルドルフだったが
戦隊ものの決め台詞のように真似るとイッパイアッテナを怒らせてしまった。
「そういうのは教養のねぇ奴がやることだ」

ルドルフの元飼い主はアメリカに行ってしまう前
野良猫として生きていけるように字を教えてくれたのだと言う。
勉強を続けるうちに新聞や本を読めるようになり
シチューの日が分かるのも献立表が読めるからだと打ち明けた。
憧れたルドルフは気合いを入れて「教養」を教えて貰うことに。

転:目前に迫る帰省

ある日テレビに出ていた光景に見覚えがあり
リエちゃんの家は岐阜であることが判明した。
ある程度の文字を習得したルドルフはギブ&テイクのギフの部分だけ見て
トラックに飛び乗ってしまうがそれは冷凍車だった。
危機一髪のところをイッパイアッテナが助けるが本気で叱られる。

それから季節は過ぎゆき、岐阜まで行くバスツアーのポスターを発見。
お別れ前に何が食べたいか聞かれたルドルフが軽はずみに肉を挙げると
イッパイアッテナはこっそりデビルに頭を下げに行ったのだった。
しかしそこでデビルに攻撃されて死にかける。

全てを目の当たりにしたブッチーは慌ててルドルフに報告し
ルドルフは小学校教諭のクマ先生に助けを求めに行った。
危機一髪で助かったイッパイアッテナが目を覚まし
「ブッチーからなんか聞いてるか?」と情けなさそうにきくと
ルドルフは「交通事故にあったって聞いて」と優しい嘘をついた。

いざバスの出発だが、ルドルフはデビルに復讐しに向かう。
「ブッチー、僕に何かあったら無事にバスに乗ったって言ってね」
ブッチーと協力して泳げないデビルを池に落とし勝利を決め
「今度猫に手を出したら両耳ちょんぎって頭つるんつるんにしてやるからな!」
と待望のセリフを吐くことが出来た。
旅立った筈のルドルフが復讐に行ったことを分かった上で
バスに乗り遅れたという嘘を信じたふりをする優しい空気が流れる。

結:念願の帰省

車を乗り継いで地道に岐阜に向かう作戦に切り替え
SAや地名を覚えてゆくルドルフ。
イッパイアッテナはアメリカの飼い主に会いに行く夢を叶えると約束した。

待望の我が家に辿り着き、ソファで眠るリエちゃんに感動するが
そこにはルドルフと名乗る黒猫がいて「おじさん誰」と質問してきた。
1年以上待ったけど帰ってこないから同じ母猫から生まれた僕を引き取り
2匹は飼えないから僕だけが貰われてきたのだと聞かされる。
寝ぼけたリエちゃんに一瞬抱き締められるが身を引いて走り去るルドルフ。
東京に戻り、イッパイアッテナに再会してからルドルフは大泣きした。

イッパイアッテナの飼い主はアメリカで事業に成功し
なんと元の家に戻ってきて新築を建てたのだった。
猫たちはそこで楽しく暮らし、お隣のデビルとも仲良くしたのだった。
めでたしめでたし。

感想(ネタバレ)

小学生時代に読んだ本なので懐かしくなって見た映画。
岐阜と言えばこの本を思い出すくらいにはインパクトのあるものだったが
物語の流れを忘れていたり大人になると感じ方が変わる部分も多く
今の自分が見てもとても楽しめる作品になっていた。

「イッパイアッテナ」の名前を羨む飼い犬デビルの一言が深い。
色んな名前で呼ばれるってことは
それだけ自分の名前を呼んでくれる人がいるってことだろ。
子供にはただの摂理でも、孤独を知った大人の心は震えさせる。

デビルとの闘いで一滴も血が描かれなかったり
冷凍車のくだりで完全に氷になるあたりの描写は子供向けだなとか
猫が人間を越えて博識になるのありえないなとは思うものの
ひとつの妄想世界として親子の教育の光景と思うととても微笑ましい。
優しい嘘をつきあうシーンは涙を誘われた。

リエちゃんに一目姿を見て貰えたら結末は違ったかもしれないけど
抱き締めて貰えた一瞬でこれまでの努力は実を結んだ筈だし
似た黒猫に同じ名前をつけて帰りを待っていたリエちゃんは
どっちのルドを呼び寄せて撫でているか不明確なのが良かった。

写真立てと餌の器を見た主人公ルドルフは何を想って走ったのだろう。
もう思い出にされてしまったと疎外感を覚えたのだろうか。
大切にされていた実感を得て心の支えに振り切ったのだろうか。

そして新ルドに「おじさん誰」と聞かれて
「いっぱいあってな」と答えた主人公ルドルフには
名前を呼んでくれるたくさんの人がいるのだと思うと少し救われる。
イッパイアッテナとの絆が続いていくのもまた美しい。