霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

ロストパラダイス・イン・トーキョー

障害者の兄の為にデリヘルを呼んだ弟の苦悩物語

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基本情報

監督:白石和彌

脚本:高橋泉 / 白石和彌

出演者:小林且弥 / 内田慈 / ウダタカキ

あらすじ(ネタバレ)

知的障碍者の兄実夫(さねお)を1人で面倒見ていた父が亡くなり
代わりに同居を開始して面倒を見ながら働きにも出ることになった幹生(みきお)。
ある日ベッドに性器をこすりつける兄を見てしまい
戸惑った幹生は"助けてくれる誰か"にデリヘルを思いついた。
呼ばれたマリンちゃんは障害者専用の性ヘルパーもあると教えてくれたが
幹生は「兄は少し変わってますけど全然普通なんで」と言って
障害者として認め切れていないのがこの物語の要となる。

マリンちゃんはデリヘル嬢の顔と、ファンのいない地下アイドルの顔と
少し前まで普通にOLをしていた一般の女の子の顔があった。
お金には困ってないが家を持つのは勿体ないと言って
客の家とネカフェとビジホを転々としながら飄々と貯金をし
いつかアイランドを手に入れるという夢を語る不思議ちゃん。

実夫は日中1人で放置しておいても生活出来るしパニックになる描写もない。
ヴィトンバッグの記号のような模様を延々を書き続ける癖があり
亀と共に穏やかなマイワールドに生きている。
しかし描いていい所とダメな所の区別がつかないので
家を出ると公共の場所でも無制限に書き続けてしまう。

幹生はブラック企業感漂うマンション販売営業の職場でストレスを抱え
同僚たちには兄の存在を隠して一人っ子だと言い
「普通でない身内」を恥じる想いと、身内を愚弄されたくない想いで揺れていた。
父の遺品から南京錠とチェーンが見つかり
かつて実夫が近所の女の子を性的暴行してしまった事件以来
鍵をかけて家に閉じ込めていたのだった。
らくがきをしに外に飛び出してしまう兄に困り果てた幹生は
父のやり方に共感せざるを得なくなり、兄を家に閉じ込めるようになる。

地下アイドルとしてインタビューを受けていたマリンちゃんが
風俗嬢として見つかってしまい
追加金を出すから相手の顔出しOKでAVを録らせろと交渉される。
貯金を進めたいマリンちゃんは衝撃の高額ギャラに幹生と実夫を巻き込むことに。
幹生は怒りながらも「説得」に心が揺れて応じることにした。
取材陣のコネで情報が舞い込み
実夫が以前襲った子の父親が「謝罪を受け入れる」と言っているという。
しかし相手は許す気など毛頭なく、暴行の挙句刃物で幹生足を刺した。

マリンちゃんの「説得」は実夫に関する負担を半分背負わせてくれという
最早プロポーズのようなセリフだった。
実夫が実夫のままでいられる、好きなだけらくがきしていいアイランドへ
共に行こうと。
「兄に幸せ(という概念)はあるのか」というテーマ悩んでいた幹生は
すぐに心を開いて合鍵を渡し、3人の同居生活が始まる。
実夫とマリンちゃんも自然なやりとりで和やかに暮らし3人で外出したり
マリンちゃんは1,500万円貯まった通帳を幹生に見せて不動産屋へ行った。
即決して現金でアイランドを購入し、2人は肉体的にも結ばれ
幸せを絵に描いたような暮らしだった。

しかしある日実夫が行方不明になってしまった。
海辺に飼っていた亀と、マリンちゃんがプレゼントした靴だけが残されていて
入水自殺でもしてしまったのではないかと不安に駆られ泣き叫ぶ2人。
帰ってくる可能性を信じてこのアパートで待ち続けるという幹生に
「その時は、実夫によろしくね」と言ってマリンちゃんは幹生の元からも去った。

職業を工場に変えた幹生はそこでもまたクビを言い渡され
相変わらずの無能さに苦しむ日々を送っていたようだったが
ニュースで兄の存在を目撃して大興奮で自転車をこぎ始める。
手漕ぎボートで大海原を横断する謎の男がいると報道されていたのだ。
ニュースを見たマリンちゃんからも電話が入り今からそっちに行くと再会予告。
「幹生と話したいことがたくさんあるよ」
そして初めて本名を名乗ったマリンちゃん。
きっとまた幸せそうな3人の暮らしが始まるのだろうなという
想像でのハッピーエンド。

感想

障害者も風俗嬢も私にとっては非日常で
その掛け合わせに対する好奇心で見ようと思った1本。
「障害者に抵抗なく一緒に楽しく生きられる女の子」もきっと非日常だった。
そういう意味では主人公の幹生は
「身内の恥」と「身内の誇り」で揺れる一般感覚が1番強くて
感情移入しやすい作品だったのかもしれない。
感動するシーンがあったかとかメッセージや教訓を得られたかと言えばNOだけど
衝撃と余韻だけは強い、たまにはこういう作品があってもいい。

前情報なく軽い好奇心で見た割には夢中になって見てしまって
お話の展開は退屈しない作品だった。
ただ、マリンちゃんは幹生と恋愛関係になったのだと解釈して見てたのに
「実夫のこと半分私に分けてくれないかな」の言葉の通りでしかなくて
実夫が行方不明になってしまったら3人がバラバラになった意味が分からなかった。
砂浜で泣き叫びながらのシーンも何がそこまで悲しく怒らせるのか共感出来なくて
演者との間に温度差があったと思う。

幹生は社会人の顔と不安に苦しむ顔
マリンちゃんは飄々とした風俗嬢やアイドルの顔と素朴なOL時代の顔
2人共それぞれに多面性があることを描いてたテーマは面白かった。
手漕ぎボートで一目散にアイランドを目指した実夫だけは一面なんだろう。

家の前の空き地でマリンちゃんのダンスを実夫が真似してるシーンも良かったな。
知的障害あってそこまで出来ます?っていう疑問もあったけど
少なからずマリンちゃんのほがらかなキャラに癒されながら見れた映画。