霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

ニュー・シネマ・パラダイス

親子ほど年の離れた男の友情に深い愛を感じる物語

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基本情報

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
製作:フランコ・クリスタルディ
製作総指揮:ミーノ・バルベラ
出演者:フィリップ・ノワレ / ジャック・ペラン / サルヴァトーレ・カシオ
    マルコ・レオナルディ / アニェーゼ・ナーノ
日本公開:1989年12月16日
上映時間:155分
製作国:イタリア・フランス
言語:イタリア語

あらすじ(ネタバレ)

老いた母親が30年も帰省しない息子に1人の訃報を伝えるところから物語が始まる。
電話をとったのは息子のパートナーの女性で
本人に告げられたのはキングサイズのベッドのある立派な寝室だった。
金銭的に豊かで女性にも不自由なく生活する背景に親と疎遠になっていた理由とは。
主人公の男性はベッドに入り、衝撃を受けたように回想に入る。

トトと呼ばれる小さな男の子の家には父親がいなかった。
戦争に出たきり帰ってこず、後に死亡者リストとして知らされる。
ヒステリックに叱ることが多い母より
好奇心を煽ってくれる映画技師のアルフレードおじさんに心を寄せがちだった。

当時はまだ娯楽が殆どなく、映画館が人々の人気を独り占めしている時代。
それと同時に機材・資材は発達しておらず
映写機回転の熱で発火することも珍しくはなかった。
そして当時はまだ過激なシーンに対してかなり保守的であり
一般公開前にキスシーンなどは全て切り取る作業も行っていた。
アルフレードの目を盗んでトトは不要カットされたフィルムを持ち帰り
お菓子の缶に入れて宝物としてコレクションしていた。

連日大盛況で3時間も映画館の外で待ったのに入場させて貰えない客たちが
不満を口に暴動を起こすと、アルフレードは広場の壁に映写機を向けて
外で大勢の人たちに鑑賞が可能なよう手を尽くし人々を喜ばせた。
しかし映写機から目を離した隙に発火しており、為すすべなく大火事に。
必死の想いで小さなトトがアルフレードを引きずって救助するが
アルフレードは大やけどをおって両目を失明してしまった。

宝くじをあてた男が出資して新しい映画館が建った。
これが「ニュー・シネマ・パラダイス」という名前である。
視力を失ったアルフレードは引退し、子供でありながらトトが技師を引き継いだ。
経営方針が一新され、キスシーンもノーカットで見られるようになり観客も沸く。
発火しないフィルムの素材も開発され、時代は進化していった。

青年に成長したトトと少し老いたアルフレード
悩める少年を諭してくれるよき理解者として関係が続いていた。
恋をして、うまくいったりいかなくなったりしているうちに出兵が決まる。
彼女とはそれ以来音信不通になってしまいトトは悲しんだ。

戦争を終えて村に戻ってくると、映画技師の椅子には既に別の人がいて
ニューシネマの看板も剥がれ「パラダイス」だけが残っていた。
景色は変わっていないのに自分の居場所を見つけられなかったトト。
アルフレードに会いに行くと彼は所謂引き籠りになっていた。
理由は「話すのも黙ってるのも同じだから」と言う。
アルフレードは「ここは邪悪の地だから外に出ろ」と都心ローマへの転居を勧めた。

ここにいると自分が世界の中心だと感じる
何もかもが不変だと感じる
だがここを出て2年もすると何もかも変わっている
頼りの糸が切れる
会いたい人もいなくなってしまう
一度村を出たら長い年月帰るな
年月を経て帰郷すれば友達や懐かしい土地に再会できる
今のお前には無理だ
お前は私より盲目だ
人生はお前が見た映画とは違う
人生はもっと困難なものだ

寂しい目をしながらもトトはその教えに従って村を出た。
駅のホームで家族とアルフレードに見送られながら。
「私たちを忘れろ」

シーンがようやく現在へ戻る。
帰省したアルフレードが家に迎え入れられ長い年月を置いて母と再会を果たした。
トトの部屋は出て行った当時のままになっていて
懐かしく嬉しそうに部屋と母の顔を交互に見る。
親子間の優しさがにじみ出ていた。

アルフレードの葬儀で、彼の奥さんは「最期までずっとトトの話をしていたわ」と
離れている間も尚愛されていたことを聞かされる。
形見を渡したいから後で家に寄るよう言われ、映画のフィルムを受け取った。
アルフレードは自分が死んでもトトに知らせぬよう言っていたとも言う。

葬儀で近くを通ったかつての映画館は閉館してボロボロになっており
参列者の中にいた館長は出世して立派になったトトに敬語を使う。
映画館の爆破を皆で見守るシーンもあり1つの時代の終わりを見守った。

家に帰り、映写機を回すトト。
かつて自分で撮影した映画で
当時付き合った女性を映した懐かしいフィルムだった。
しかしこれは形見のフィルムではなく、もう1本は現在住むローマに戻って
「映画館の偉い立場」から部下に上映を命じて試写が始まった。
切り取ったキスシーンの繋ぎ合わせのフィルムだった。
それは時代の象徴であり、思い出の欠片の繋ぎ合わせであり、宝物だった。

感想

側にいて関わり、何かを与え合うばかりが愛の形じゃないんだなと思った。
愛しているが故に自分を忘れて環境を変えろと指南するのはすごい思い切りで
アルフレードに絶大な信頼を置いているからこそ従った流れにも絆を感じた。

主人公トトにスポットがあてられているのでアルフレードは脇役だが
引き籠りになり、誰のセリフでもない自らのセリフをトトに伝えた背景には
それ相応の苦悩があったのだと思うとそこにも胸を打たれた。
「お前もやがて分かるだろうが、話すのも黙っているのも同じ」
というセリフに略された言葉は「理解して貰えない現実は」が思い浮かんだ。

2年ぶり程度ではダメで、長い年月ぶりだと再会出来るというのも真理だと思う。
求めるものが固形化している時はきっと目の前に何を差し出されても受け入れられず
求める気持ちが完全になくなって輪郭すらぼやけた頃に触れると
懐かしさが「良い思い出」だけを抽出し、綺麗な形にしてくれるのかもしれない。
私の人生にもそういうことがあった。

ローマに帰る直前の母との会話で、母がトトを全肯定していたのが素晴らしかった。
かつてはやることなすこと自分の思い通りにいかないトトを叱って
映画という趣味を取り上げようとしていたのに
今は遠く離れていることにも慣れて、幸せになって欲しいと願いを告げる。
母もまた成長したのだと思った。
そしてそれを伝え、トトが受け入れる機会が訪れて本当に救われる気持ちだった。
トトはずっと母を捨てたことを罪悪感に思っていたのなら、これで消化出来た筈だ。

村の館長が敬語を使った際に「立派になられたから」と言っていて
最初に描かれた寝室にも経済豊かそうな環境が見受けられたから
一体どんな職業についたのだろうと思ったら映画関連だったことも嬉しかった。
時代はテレビへと移行したにも関わらず成功したということは
それだけの熱意と知識とセンスを幼少期から身に着けたのが大きい筈で
彼を形成したアルフレードの教えがそこに「生きている」のだと感じた。

最後のキスシーンは涙が止まらなかった。

映画の3/4くらいすべてラストシーンへの伏線で
最初は面白さが分かりづらい物語だなと思ったけど素晴らしい作品。
長年の間、不朽の名作と言われるだけある良作だった。