霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

ザ・ボーイ 人形少年の館

死んだ少年が人形として生きる館に怯える物語

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基本情報

監督:ウィリアム・ブレント・ベル
ジャンル:ホラー・サスペンス映画
描写:実写
公開:2016年
音声:字幕

あらすじ(ネタバレあり)

暴力的な元カレから逃げる為、アメリカからイギリスへ生活の土地を変えたグレタ。
豪華な古いお屋敷へ到着すると、物資運搬業者として出入りするマルコムと出会う。
家主の老夫婦に紹介された溺愛する我が子「ブラームス」が人形だったので面食らうが
給料の良さに惹かれ、この家でベビーシッターとして雇われることに。

グレタにブラームスを預けた夫婦は早速旅行に出かけてしまう。
夫婦は最初から息子をグレタに押し付けるつもりで入水自殺を図ったのだった。

お世話の10箇条が書かれたメモを託されていたが
ばかばかしいと思ったグレタは人形を乱雑に放置し1人暮らし生活を開始。
すると人形が自己主張するかのように奇怪現象が起こり始めるのだった。
デートに着ていこうとした服が隠され、屋根裏に一晩だけ閉じ込められ
ついには受話器越しにブラームスが「良い子にするから遊んで」と訴えてきて
ドア越しに見えた動く影が消えると、サンドイッチが置かれていた。

さすがに気のせいでは済まない明確な存在感に真実を追求し始めるグレタ。
目の前ではコミュニケーションを取ってくれないが
見てない時ならある程度要望通りに行動を起こしてくれることを理解。
意思の疎通が出来る幽霊のような存在だと解釈したグレタは行動を改め
10のルールを忠実に守って献身的に人形の世話をするようになった。

01.客人を招いてはならない
02.少年の顔を覆ってはいけない
03.食事は冷蔵庫で保管せよ
04.毎朝7時に起こすこと
05.平日は3時間勉強を教えること
06.音楽を大音量でかけること
07.少年を独りにしてはならない
08.庭のネズミ取りを掃除すること
09.必ず少年に食事を与えること
10.お休みのキスをすること

人形相手にこの一連の仕草を行う姿は異常だが、2人の絆は深まっていく。
マルコムと恋に落ち、寝かしつけたグレタの隣の部屋でベッドに転がり込むと
突然大音量で音楽が鳴り、人形はベッドから起きて座っていた。
まるで嫉妬して2人を邪魔するかのように。

そんな頃にDVの元カレが追いかけてきてしまう。
身ごもった子すら暴力で殺されて許すことは出来ないと聞いていたマルコムは
グレタを守る為、屋敷の外でこっそり車内泊して様子をうかがっていた。
翌日の飛行機で連れて帰ろうとする元カレを仕方なく一晩泊め
その夜グレタはブラームスのベッドで助けを求めて泣きながら添い寝した。

すると深夜にブラームスが元カレに行動を仕掛ける。
死んだネズミの血で壁に「出ていけ」と書き、元カレの顔に血の雫を落とした。
ブラームスの存在など信じてない元カレは生身の人間2人に激怒し
陶器で出来た人形のブラームスを床に叩きつけて粉々に割ってしまう。
すると人形の怒りを表すかのように屋敷が振動し
壁を突き破って仮面をつけた人間の男性が登場。
もし生きていたらマルコムと同じくらいの歳とのことだったので
本物が生きていたのだと発覚するシーン。

ブラームスは元カレを完全に敵だと認識し惨殺。
すると怯えたグレタはそれまでの絆や愛情はどこへやら、ブラームスを怖がり始め
敵意がこちらにも向くと判断したマルコムと共に逃げ出す展開へ。
グレタを逃したくないブラームスは当然追いかけてきて、館の中で鬼ごっこと化す。

その時グレタとマルコムは「人間ブラームス」の隠れ部屋へ迷い込み
夫婦の遺書や消えたドレスを愛でられていたことを発見し、真実を把握。
攻撃的でストーカー気質な男性はグレタにとって嫌悪の象徴なので
より一層の恐怖感と共にブラームスへの愛情が消失。

マルコムが犠牲となってグレタを逃してくれたものの
やはり助けなければと屋敷に戻るグレタ。
ベビーシッターの配役を活かし、ブラームスを寝かしつけることに。
ルール通りのキスを求めるブラームスに躊躇うも断り切れずにいたら
無反応な人形と違って濃厚で長いものとなってしまう。
その隙にグレタはドライバーでブラームスの胸を突き刺すが
裏切られたと察したブラームスはグレタの首を絞め殺そうと立場逆転。
しかしグレタの攻撃が勝利し、倒れたブラームスを放置してマルコムの元へ。

2人は車で脱出に成功し
ブラームスは命を取り留め、割れた人形の顔を修復する結末。

感想(ネタバレあり)

これは面白い!★4.5くらいつけたい。
出会えてよかった映画のひとつとなった。

私は人形が怖い。このブラームスは不気味さが完璧すぎる。
元々人形には意思があるような気がして
夫婦の目がなくなった途端に乱雑に扱うグレタに肝が冷えた。
なのに見終わるとこの人形が少し可愛く見えてくる不思議。
豪華なお屋敷は見てるだけで心が躍るから建築ビジュアルも好ポイント。
キッチンが現代的なのと、グレタの服装が好みじゃないので-0.5といったところ。

見てる間ずっとヒヤヒヤハラハラドキドキしてたのに
どんでん返しの結末のおかげで恐怖感が残らないのがとても良い。
なーんだ、人間かぁ!ってネタバレのおかげで
ホラーを見終わった後特有の暗闇で怯える感じとかが残らず済んだ。

ブラームスが幸せになる方法やこの映画に描かれない部分を想像したり
余白を楽しむことも出来るしっかりした設定も高評価。
ブラームス異常すぎるよ!キャラ立ち完璧だよ!良い。とにかく良い。

続編の撮影が開始されているとのことで期待大。
日本公開が決まったら映画館まで行く勢いで気に入った。

特筆したい点

10のルールの伏線

気難しい奥様が神経質なんだな、という表面的な印象にすっかり騙された。
壁の中にいるから音や声は大きくなくてはいけないし
食べ残しは冷蔵庫で保管させる「人間ブラームスの生活」の確立だったとは!
ネズミ捕りは見てない隙に家の中を歩くから外に出させる目的?

どこにホラー要素が隠されてるだろうと疑いの眼差しで見てたので
ゴミ箱が大きいことに違和感を覚えて殺した人間の保管?とか考えてしまった。
まさか人間がこっそりもう1人住むヒントが隠されてるとは考えないわ。
やられた。

胸毛がすごい

これは触れずにいられない。
人間ブラームスの胸毛ヤバい。
ツルンとして人形の無機質さに相反するビジュアルの強烈さが凄い。
仮面の下からもじゃもじゃのヒゲも溢れている。
服も薄汚れているし肌は脂ぎってるし、その汚らしさにお風呂の心配がよぎる。
でもスタイルが良いだけ嫌悪感が軽減されている気がする。
これがもしハゲでデブだったらおやすみのキスの難易度高すぎるでしょ…。

なんでこうなった?

好きな子を撲殺して逮捕手前で火事を起こしたっていうエピソードが
ここでは「異常者」としてしか扱われなかったけど詳細が気になる。
撲殺は子供が手加減出来なかったってことでもいいし
放火もまぁ100歩譲って逮捕されるのが怖くて
子供がヤケを起こしたってことでいい。
けど、大やけどを負って怖い想いをした子供に対して親は何をしてたのかと。
「異常な子」の烙印を押して、恐怖の対象としてしまったのは両親なのでは?

「知的で美しい完璧な我が子」が歪んだことを受け入れず
それを人形に求め、歪んだ実物を隠そうとしたのかな。
ブラームスが自発的にあの部屋を求めて壁の中に住むようになったというより
親に勝手に死んだことにされて監禁されたと解釈する方がスムーズ?
良い親でいたい故に、中途半端な責任感で飼う形で命を繋いできたというか。
そんな歪んだ生活の中じゃ
恐怖を与えることでしか自分の価値を見いだせないよね。

だからこそ愛に飢えて、やけどで醜い自分を受け入れられなくて
親が愛でる人形に自己投影しながら
人形が大切にされることで愛されたつもりになるのかなーとか。

平日3時間の勉強も親のエゴのように思えるし
壁の中で真面目にそれを学んでいたかは分からないよね。
息子にはこうあって欲しい、理想とかけ離れた人は息子じゃない
そんな親のワガママが生んだ悲劇のような気がする。
遺産を息子に託す遺書を残すあたりは親としての自覚と愛情を持ってたんだろうし
この親にも何が間違っているかどこに勇気を持つべきか
教えてくれる人がいたら良かったね。

まぁでもバッドエンド好きだし
重しにする石をポケットに入れて手を繋いで入水するシーンは美しかったし
作品としてはこれでバッチリなんだけども。
どこのねじれをほどいたらいいか考えるのは趣味だ。

もし元カレが来なかったら

このお話は元カレが強引に人形を壊したことで
ブラームスが実態を表して目の前で殺人を犯してしまったけど
もし平穏に壁の中で暮らしながら絆が深まったらどうだったんだろう。
タイミングさえ良ければグレタは人間のブラームスを受け入れたのかなー。

でも隠し部屋が発覚した時のグレタのリアクションから察するに
黙って毎日監視されてたってことと、自分の偶像を作られた嫌悪感が強そうだし
仲良く出来るハッピーエンドはないかもな。
相手が子供だと思えばこそ出来るコミュニケーションであって
相手が成人男性だと分かったら厳しいよね…。
ましてやグレタが選ばれた理由を「若くて綺麗」と説明してた奥様。

受け継がれる人形愛

ブラームスを人形と重ね合わせて生活していた一家にとって
「人形を愛でることで本人を愛している」という間接的な感情表現が肯定されていた。
そんなブラームスがグレタの人形を作って自室で愛でていたのはある意味自然で
子は親を見て育つとはこういうことだなと頷いたり。
というか、そういう詳細設定まで描いているこの映画が素晴らしい。
こうやって育てたらこうなってしまうんだろうっていう矛盾のなさが単純に興味深い。

説明のつかない怪奇現象もある

グレタが屋根裏に閉じ込められた時のハシゴとか
それをマルコムに説明した時のハシゴの高速な動きとか
人形が壊された時の家中の振動とか。
でも人形パリーンの瞬間はもう本当に震え上がったので(私が)
家が震えてくれてもなんら構わないくらいの迫力ではあった(笑)。

ネズミの謎

10のルールでネズミ捕りが日課にされていたことと
元カレを脅す際のネズミはどう関係してたんだろうか。
ブラームスはそのネズミを日常的に何かに使っていたの?
サイコパスの惨殺趣味を満たすおもちゃとか?まさか食べ…ないよね
脅そうと思った時にたまたま家にあったアイテムってだけなのかな。
シンデレラにちょっと重ねてたり?…は考え過ぎか。

あと10のルールの窓を開けてはならない、は何の為だったんだろうか。
風がないのに人形を覆った布が落ちたっていう不思議感の演出だけ?