霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

寄生獣

人食寄生獣に命の平等さを考えさせられる物語

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基本情報

監督:山崎貴
脚本:古沢良太 / 山崎貴
原作:岩明均寄生獣
製作:川村元気 / 佐藤貴博 / 守屋圭一郎
出演:染谷将太 / 阿部サダヲ / 深津絵里 / 橋本愛
   大森南朋 / 余貴美子 / 北村一輝 /浅野忠信

あらすじ(ネタバレ)

地球上の誰かがふと思った
「人類の数が半分になったらいくつの森が焼かれずに済むだろうか…」
地球上の誰かがふと思った
「人間の数が1/100になったら垂れ流される毒も1/100になるだろうか…」
地球上の誰かがふと思った
「生物(みんな)の命を守らなければ…」

環境問題を訴えるナレーションで始まる物語。
海に浮かぶウイルスのような球体が陸地へ辿り着くと
分裂してトカゲのような物体となり、地を這い運搬物へ侵入する。
それらは一般家庭へ入り込み
耳や鼻を介して人間の体内に入り脳に寄生する生物だった。
脳への寄生が成功した者は翌朝目覚めると家族を一瞬で喰らった。
自分の顔を開花のように切り開き、丸呑みする形だ。

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しかし主人公新一はイヤホンをしていたので耳からの侵入を防ぎ
鼻から入ろうとしたところを慌てて退治した為、ソレは慌てて右手へ飛び込んだ。
脳へ辿り着こうとするソレ VS 紐で腕をぐるぐる巻きにして阻止する新一の戦いは
腕の中に定着するという形で落ち着いたようだ。

翌朝通学中に話しかけてきた女子、村野里美に好奇心を見せた右手。
新一の意思とは無関係に勝手に胸を触り里美を怒らせ、新一を動揺させる。
落とした消しゴムを取ろうとした時、右手が勝手に伸びたり
バスケのゴールがミラクルシュートをキメたりと右手に違和感を覚える事件が多発。
不安に思って検索した後カッターでつついてみると
右手がモンスターになって顔に飛びかかってきたが威嚇どまりだった。
ソレは新一を食べようとしたのに食べる能力が備わっていないことを自覚し
威嚇をやめて目だけがついた手の姿に変わり
たどたどしく言葉を教えるよう要求してくる。
他の寄生獣たちもテレビを見てこの世界のことを学んでいた。

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翌日新一が目を覚ますと、右手の左手は本を読み、右手の右手は検索し
めちゃくちゃな同時進行で猛勉強をしていた。
あっという間に日本語もペラペラになっている。
何者なのかを問われたソレは人間同様に分からないと言い
「最も古い記憶は脳を奪うことに失敗し残念という気持ち」と説明した。
化物と呼ばれることを拒み『ミギー』と呼べと言う。

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学校の図書館で学び、剣道や弓道の部活見学をし、戦闘訓練と心得るミギー。
里美と同じ絵画部で絵を描く新一はインドア派男子だった。
ミギーには微妙な血流の変化で感情の動きがバレるらしく
「ふざけてはいない、純粋な興味だ」と下ネタではしゃぐ平和な関係。
しかしその間にも他の寄生獣は次々と人を食べ散らかしていく。

ある日、ミギーの指図で同種の匂いを嗅ぎつけて接近を試みることに。
中華屋に入ると主人は「食事中」だった。
ちぎれた腕をおすそ分けに差し出されても拒否する新一が人間だとバレ
猛烈に警戒して殺意を向けてくる。
「何だお前脳が丸々生き残ってるのか?」
主人はミギーに「引っ越し」を勧め、新一と両方を見て悩むミギー。
結果、ミギーは主人を殺害したが新一のためではないと言う。
「移動に確信を持てなかった
新一のためではなく自分の命のみを大事にした」

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不安の払拭を求めるように母親の職場へ迎えに行き
メンチカツを買って腕を組んで帰る仲良しな親子関係。
悩みがあるのかと聞いてくる母の手には火傷の跡があった。
理由はひっくり返した天ぷら油をかぶりそうになった新一を素手で助けたからで
自分の命のみを重視するミギーとは異なることが描かれる。
「我が身を犠牲にして他人を守る、最も理解し難い人間の特性だ」

価値観の違う2人がぶつかり合うシーン。

あいつらどうにかしなきゃ
 —なぜ問題があるのか分からない
人間を食べることないじゃないか
 —新一は同種を喰われるのがなぜそんなに嫌なんだ?
人間の命は尊いんだよ
 —尊いのは自分の命だ
   私にとって価値があるのは私の命だけだ
   君達は牛も豚も鳥も魚もありとあらゆる種を食べている
   それに比べれば人間一種を食べる行為は慎ましいではないか

新一の視力や聴力を奪って生命のみ維持させることも可能だと刃物を見せると
ふてくされた新一は「悪魔」と吐き捨てた。
疑問を持ったミギーは「悪魔」を検索して概念を調べる。
「一通り調べたが1番近い生物はやはり人間だと思うぞ」

全校集会で代人教師として壇上から挨拶した田宮良子。
ミギーは瞬時に彼女もまた同種であると察し警戒した。
固有の身分を引き継ぎ人間界のことを学ぶだけではなく
教えるまでに発達し、共存しようとしていることに驚くミギーと新一。
「私はただ穏便に生きていきたいだけ」

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水族館に連れ出されて田宮良子の仲間、高校生と警察官を紹介される。
生き延びる為に仲間同士助け合う必要があり
その為にネットワークを組んでいるのだそうだ。
水族館の魚の大群を見ながら大事なのはネットワークだと言う。
ネットワークに入らないなら全校生徒を人質と思えと脅された。
警察官のAさんとの間に子供を設ける実験をした田宮。
「ボディーは人間同士だから人間が生まれる…」
「だとしたら私たちは一体何?
繁殖能力もなくて共食いのようなことを繰り返す」

とある施設で優雅に「食事」する化物たち。
田宮涼子は人間との共存とのためサンドウィッチを食べる本気ぶり。
Aにはもっと笑顔になれとアドバイスするネットワーク。
「人間社会で円滑に生きていくためのコツよ」
それは人間にも響くアドバイスだった。

あまり最近あんたとゆっくり話せてないからさ
親をバカにしないの
あんたになんかあったことくらい分かるわよ
母さんさ、あんたの力になりたいのよ

新一に何かあったことを悟っていた母は必死に聞き出そうとするが
打ち明けられずに突っぱねて喧嘩となる。
これが2人の最期の会話となってしまう。

中華料理屋の一件で警察の捜査が厳しくなったことを恨むAが新一を待ち伏せ
魚市場で戦闘となった。
パニクる新一にミギーはプランAとプランBの選択を迫り
ミギーがAと戦っている最中に新一がパイプでAの腹を刺す作戦で勝利した。
「人間部分が独自に攻撃してくることを想定していなかったことが君の敗因だ」
しかしプランBはなく、新一を落ち着かせるための方便だったという。

「切断、分離、結合、蘇生…」と繰り返し呟く倒れたままのAを見付け
心配して近付いた新一の母親が体を乗っ取られて帰宅する。
全てを把握したミギーと信じたくない新一。
新一はミギーに包丁を向け「嘘だって言ってよ」と母への愛と感謝を泣き叫んだ。
Aに心臓を破壊され一撃で倒されたが
背中の穴からミギーが体内へ入り細胞を修復した。
しばらく経って固まりかけた血の海から立ち上がる新一。
服を脱いで鏡で傷を確認し母の死を実感して悶え叫ぶのだった。

復讐心に満ちた新一はAを探すことに。
好戦的だと分かってAを会わせたのはただの実験だと言う田宮にも殺意を向けるが
戦力に圧倒的な差があり敵いはしなかった。
そして新一が人間100%ではなくミギーと混ざっていることに気付き
興味深く実験対象として愛でるような視線を送る田宮。
Aを探していると政治家になろうとしている同種まで見つけて驚愕した。

母は当然母としての役割を放棄して家を離れた為、行方不明となっていた。
心配した里美が食事を作ってくれると言うので2人でスーパーへ。
店の外の道路で犬が引かれて倒れているのを見かけると
新一は拾い上げ、命が果てたことを確認するとゴミ箱へ捨てた。
「死んだ犬は犬じゃない、犬の形をした肉だ」
困惑し衝撃を受けている里美に「清掃の人が困るか(笑)」と反省点を告げると
論点の差に動揺し立ち去ってしまった。
「まるで私が言うようなセリフだ」とミギー。精神も混ざり始めていた。

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ネットワークの島田秀雄が転入生として新一の監視役を仰せつかり
着々と周囲に寄生獣が増えていく。
島田はAと違い冷静で友好的な表面を持っていたが
「パラサイトは抜いた髪の毛も動く」という噂を試した女子にキレて
絵画部の部室は殺戮の緊張感に包まれた。
勇気を出した里美が美術用具である強酸を投げつけると島田は悶え苦しみ
理性を亡くして手当たり次第に大虐殺の嵐を起こす。
校舎内は生徒の死体がゴロゴロ転がる地獄と化した。

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事態の収束を求めた田宮が島田に向けて爆弾を転がし
側にいた新一は身バレを覚悟し里美を抱えて超人的な飛び降り着地を成功させた。
爆弾程度では死ななかった島田は校舎の屋上で悶えていたが
近くのビルの屋上から弓になったミギーを使って島田を射抜き、収束となる。

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田宮は新任なのに妊娠しているという社会的に不利な立場になり
学校側から咎められ、辞任させられることになってしまう。
やはり寄生獣が人間と共存するのは容易くない。
田宮は置き土産に新一にAの居場所を教えて去ると言う。
同時に田宮は子供を本気で産む意思を見せ、困惑を告げた。

これもまた実験だ
母親とは不可解な存在だな
母親になると、理論を超越した特殊な能力を備えるものなのか
それを知りたい

この頃ミギーには予測不可能な強い睡魔の症状が突発的に表れていた。
新一の心臓を修復した際に細胞分裂させたことによる後遺症で
エネルギーが落ちているようだった。
それがAとの対戦の場でも起こり、新一は自力で戦うしかなくなった。
Aに微かに残っていたように見えた母の助力のおかげで復讐を果たし
新一はパラサイトを出来るだけ狩って行こうと決意する。

「人類の数が半分になったらいくつの森が焼かれずに済むだろうか…」
地球上の誰かがふと思った
「人間の数が1/100になったら垂れ流される毒も1/100になるだろうか…」
地球上の誰かがふと思った
「生物(みんな)の命を守らなければ…」

政治家は当選し、着々とパラサイトに住み心地の良い未来に進んでゆく。
新一には新一の、寄生獣たちには寄生獣たちの、警察には警察の
それぞれの「未来を守らねば」が交錯したまま物語は一旦幕を閉じる。

感想

 殺人を罪とする一方で戦争がなくならない世界の矛盾を思うと
ずっと一概に何が悪いとは言えないと思っていた。
大人になるにつれ疑問視が薄れて当たり前になる人間様の位置も
「(命を)いただきます」という挨拶が美化しているようにも思う。
それを改めて突き詰めて提示してくれた興味深い作品だった。
あまりに面白くて夢中で見て、見終わると慌てて続編を探した。

私はスプラッタは割と平気だけど虫が苦手なので
人体に入り込む最初の寄生シーンが1番見るのが辛かった。
思わず耳や鼻を塞いでしまった。
次第にミギーが可愛く思えて、改めて阿部サダヲの魅力を感じた。
「残念、という気持ち」という言い方が特に好き。

この作品の面白い所は、メッセージや問いかけが刺さることだ。
円滑なコミュニケーションの為には笑顔が大切であること
責任を全うする為に安易に妊娠してはいけないこと。
言葉を話す以外に人間が他の動物と違うのは何なのか。
自分の命以上に尊いものはないと言い切るミギーにも納得しつつ
母子という分かりやすい構図に覆される安心感があった。

円滑な親子関係に憧れる私としては
子供目線で必死に寄り添おうとしてくれる親の姿が描かれる度
ただひたすら羨ましく、微笑ましい気持ちになった。
田宮良子の母親が「良子じゃない」と気付いたのも
どれだけ愛情を注いできた我が子だったかの証明のようだ。
全ての母子があんな良好な関係とは限らないけれど。

地球と生命バランス維持の為に人間を間引くという考えも
当事者でなければ合理的だと思わず賛同したくなってしまう。
世間を騒がせているコロナも歴代の疫病流行も
どこかで人間を間引こうとする力が働いているのかなど
勘ぐってしまう昨今の時代背景。

この映画を見ると、人間は悪魔なのだと実感する部分が多く
罪悪感を払拭する何かが欲しくなる。