霞みゆく破片

漫画と映画の感想ブログ。アウトプットすることで覚えておきたい。

サエイズム

一方的な愛情を押し付けられる恐怖を描いた物語

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基本情報

作品名:サエイズ
作者:内水融
巻数:全6巻

掲載誌:チャンピオンクロス
発表期間:2015~2019年
別作品化:実写なし

 

作品概要・感想

物語について

接触系ストーカーから逃れられないサスペンス。

イジメられてることを親にすら言えない内気すぎる女子高生の美沙緒が主人公。
休学から復帰した才色兼備の女子高生、冴がかばってくれて仲良くなるも
好意の押し付けが加速して主従関係を強いられる。
女の子同士のカップリングだけどお色気の絡みはなし。

「いかに攻略して逃げるか」という主軸を色付ける脇役たちが濃くて可愛い。

歴史にも身近にも独裁的な関係って実はありふれていて
自分の抱く好意も相手に恐怖を与えるものになりかねなくて
現実と重ね合わせながら読むと面白味が増すお話。
我儘を通しやすい権力や能力が備わっていたら
自分はそれを利用せずにいられるだろうか。
追い詰められる側だけでなく、追い詰める側にも共感しながら読めた作品。

 

作画について

基本的には少女マンガ風の可愛い女の子と綺麗な男の子。
脇役たちの仮装姿やお屋敷のデザインにテーマパーク感があって
「可愛くて狂気的な異空間」が魅力的な作家さん。

狂った冴の作画も良いんだけど
口から雲みたいのが出てるのが口臭に見えるのはイマイチ。
狂った冴のセリフは手書きで歪みすぎてて読みづらいのも難点。
狂気を描くって難易度が高いんだなと冷静に感じた(笑)。

 

1巻ごとのあらすじ・感想(ネタバレあり)

1巻ネタバレ

トモダチ、ダツマキ、カコバナ、メツマキ

イジメを受けても悔しがる様子すら見せないされるがままの美沙緒。
親にも打ち明けられず無言で閉じこもるタイプで
イジメにどれだけの苦痛を受けているかの描写がもう少し欲しかった。
闇が浅い。

冴の休学理由はそのうち明かされるかと思ったけど不明のまま。
そんなに人気者なのになんで休学中に連絡を取り合う友人がいないのか
その辺の設定はちょっと緩い。
皆の強い支持を得るもっと分かりやすい魅力も欲しかった。
美沙緒が誘われたクラスメイトのカラオケを阻止したのに
それで反感買わずに成り立つことがそもそもありえない。

友達が出来て喜んだのもつかの間、冴の異常性に引き始める美沙緒。
そこで古海くんが登場し、過去の犠牲者2名の話を知る。
古海くんの変装が異様に気合いが入ってるところは見どころ(笑)。
サザエさんのコスプレが好き。

脱真木作戦は興味深かった。
相手の好みという理由でターゲットにされてしまうなら
好みじゃない人格を演じて見せればいいという作戦。
痴漢や性犯罪に遭遇した時、未遂に終わらせる為に
性欲を煽らない人物を演じるという発想は昔から持っていた。
私は電車で痴漢疑惑のスリスリがやってくると
スマホでむごい死体の映像を見えるように再生するようにしている。
(私は作品として称賛している見慣れたものだけど痴漢には衝撃だろうと)
海外旅行で目立つブランド品を身に纏わないっていうのも一緒よね。

鼻に指を突っ込む美沙緒の気絶は
自分に出来ないことを無理しすぎて精神的にパーンしたのかと思ったら
冴にスタンガン打たれてたとは…。
美沙緒はとりあえずいつも目を見開いて震えているけど
もうちょっと心理描写しっかり表現した方が感情移入出来るのにな。
基本的にこの作品は題材も話も面白いけど
作者の力量不足感があちこちに感じるのが残念。
良くも悪くもフラットでサラっと読みやすい分深みは浅め。

2巻ネタバレ

バラマキ、ウソナキ、サエバン、バクマキ

古海くんの存在がアッサリとバレて直接対決。
「サエバン」までに1日の猶予を与えられた意味を考える古海くん頭良いな。

体育館での写真ばら撒きに対して
堂々とステージに上がって論じる冴も頭良いなと思った。
私は裏表なく感情のままに表現してしまうタイプだから
自分の本音を伏せて他人をうまく誘導する為に演じるということに
単純に圧倒されたりもした。
「こうやったら批判をうまくかいくぐれるのか…」
色んな炎上ケースを見て感じた作者の正解を凝縮したんだろうと思う。

「この服着るのも久しぶり」と言ったサエバンの正装は
裁判官の法服のアレンジなのかな?
あのギザギザの星のような円型も弁護士バッジを模してる? 
続きが気になって夢中で読んでた。

 

3巻ネタバレ

ダイモン、ベニバナ、ネボスケ、カクセイ

廃校でのサエバンを好奇心のみで見学していた新聞部女部長。
消された古海くんの代わりに現れた蘭先輩が3巻のメイン。
このキャラ『進撃の巨人』に出てくるハンジさんに似てますね。
好奇心への強引すぎる追及心とハイテンション。

ベニバナの設定は面白かった!
ネボスケ冴ちゃんは最早理性もない怪物でフィクション化しすぎかな。
個人的にはもっと生々しい人間的な感情で追い詰めて欲しかった。
我に戻って謝りながら美沙緒を抱き締めた時のニヤリは何だったの?
回収されない伏線もどきがいくつか残ってる気がする。

神が蘭先輩の味方してくれた展開はビックリ。
このお屋敷は生きて帰れないファイナルステージかと思ったけど違った。
でも落ちた後確認しないもんかね。

4巻ネタバレ

シバコー、ウラリン、ノウドウ、サエナラ

蘭先輩の幼馴染の未来予知能力を持つ男が登場。
いやぁ、こう次々と凄い助っ人現れるとマンガだもんねーってなる。
JICHO、KACHO、SHACHO、BUCHOのメンバーで縦社会ってバンドという
ネーミングセンスには惚れた。
楽器持たず歌わずパフォーマンスしかしてないけどバンドの核で
この人いなくなったらバンドの色が変わっちゃうっていうのは
FUNKY MONKEY BABYSなんかを思い出しますね。
でもバンド大好きな私からしても
バンドで大事なのってテクじゃないってのはよーく知ってるから
本筋に関係ないのに変に強い共感を覚えた。

そもそも愛の口づけで目覚める白雪姫のように
拒絶のビンタで正気を取り戻すっていう仕組みが若干ショボいけど
真木家の秘密はちょっと面白かった。
まぁ色々非現実的過ぎてありえないんだけど
歴代の真木冴は欲望を思い通りに出来ないと死んでしまうっていう設定が
普通の人間にも当てはまるなと思って。
現実では物理ではなく心理的にだけど
願いが叶わず絶望した時、人は死にたくなるじゃないですか。
冴はどんなに裏切られてもひたすら美沙緒を溺愛し続けたし
愛し方が間違っていたにしても、心変わりしないのも凄いなと思う。

相手が自分についてこれず「殺さないとその感情が終わらない」っていうのも
我慢が苦手な私にはちょっと分からなくもない感覚だった。
好きな人を殺すとかそういう話じゃないんだけど
誰かに強制的に阻止されたり終止符を打たれないと
自分の意思で諦めるっていうことがとても苦手だったりする。
ましてや欲を満たすための努力と能力は人より長けていて
だからこそ私の場合惰性や未練で続けてしまうものも多いんだけど。

美沙緒は3人目の冴の餌食。
過去に殺しちゃった子に対して冴は喪失感がなく
「仕方なかった」と本気で思ってるあたりはサイコパスだけど
このあたりは割と冴に感情移入しながら読めたので
いっそ主人公は美沙緒じゃなくて冴にした方が迫力出た気もした。
私だったらこんな感じで描いてみたいなという想像が膨らんだ。

 

5巻ネタバレ

フタタビ、センノウ、アンヤク、サクマキ

冴の焼死後、1年ずっとその光景を悪夢として見続ける美沙緒。
でもそれを誰にも言えず、元気に暮らしてるそぶりを演じる。
バイト先の控え目な後輩に自分を重ねて面倒を見ようとするが
実は冴の餌食になった子が洗脳されて生存し続けていたパターン。
この設定はちょっと無茶に詰め込み過ぎな印象。

もっと長期連載が確定しているなら
古海くんの幼馴染ちゃんが生きてた設定で出てきて
皆の協力で洗脳を解いていくっていう展開だったら面白そうなんだけど。
そもそも冴の洗脳にかかったなら両想いの筈なのに
何故冴はこの子を捨てて次の恋愛に踏み切って飼っているのか。

で、結末ソレ!!??
え、続編はどこで読めます?なんでここで終わります???
え?????

キグルミンたちが不審な忠告をした時点で
冴復活なんだろなって展開は読めたけど
「決して逃げられない恐怖」の演出がヘタだなぁと。
もうちょっとなんとかならなかったのか。
ハッピーエンドとかバッドエンド云々の観点じゃなくて
結末の描写があまりにお粗末でガッカリ。
全体的に面白かったんだけどなんせ雑で浅いという印象。

…と思ったら、私が読んだサイトでの配信が
5巻の1章『フタタビ』で終わっていたらしい。
続き探します。。

6巻未読

ウチクル?、カンオチ、フワモエ、ハチガツ